ドイツ語圏の生活・文化 第2回 ウィーン楽友協会立見席体験記



今回はクラシック音楽がテーマです。

クラシック音楽? 敷居が高いのでは? 大丈夫です。
立見席でコンサートを鑑賞した体験記をお送りします。


ウィーン楽友協会立見席体験記(2015年3月8日)


今回立ち見で鑑賞したのは、ルドルフ・ブフビンダーをソリストに迎え、ズビン・メータがブラームスのピアノ協奏曲1・2番を指揮するというとても贅沢なプログラムでした。予約のネット画面を見たときには、立ち見とパイプオルガン際の舞台が見えない席だけしか手に入らない状態でした。結局6ユーロという激安立見席チケットを購入し、会場に向かいました。

日曜日の昼の公演で、開演は11時。開場はその1時間前ということで、立ち見ですこしでもいい場所を確保するには最初が肝心と、9時45分には開場前にいました。建物の入り口の外で待っていると、なぜか真ん中には人が少なく、多くが両側にいました。その謎は後で解けました。楽友協会の建物の内側には、開演1時間前には入れますが、その時は座席扉前までしか行けません。席につけるのは開演30分前からでした。立見席の観客は、開場後に建物の中の両サイドにある立見席入り口で、行列を作って待たなければならなかったのです。それを知っている人は、少しでも立見席待機場所で良い位置を確保するために、最初から建物の両サイドにいたというわけです。

ウィーンはドイツ語圏らしく、時間には厳格です。建物の入り口3箇所には、それぞれ係りの人が立ち、10時ぴったり同時に扉が開きました。私は建物の中に駆け込んだものの、どこが立見席かわかりません。本当はそのまま立見席まで走っていけると思っていたのです。劇場内で係りの人に聞いて指さされた場所は、元の入り口のそばでした。その時ようやく、また行列を作って待つのだということがわかってきました。

「立見席」Stehplatzはホール1階奥にありますが、そこはそもそも建物の2階でした。立見席行列は建物1階両サイド、大きな窓の側の質素な階段から入ります。階段にはロープがかかっていて、勝手に入れないように係りの人が見張っています。そこで待つこと25分。その間、係りの人が切符の提示を求めたり、まだガードローべにコートや鞄を預けていない人は、荷物を片付けて来るように指示されます。グループの人は代わり番こに出かけ、1人の人は、列の隣の人に声をかけて、場所を確保してもらうといいでしょう。私は全体で10人目くらいに並んでいました。

10時25分になった時、階段のロープが開けられ、係りの人の先導で2階に誘導されました。そのままホール内に入れてもらえるのかと思いきや、そこでも待機です。10年前に1回しか来たことのないホールなので、どこにどう連れていかれるのか、その時はさっぱりわかりませんでした。階段を上がり、広間を進み、大きな扉の前まで誘導されました。2列に並ばされ、係りの人がチケットを回収に来ました。10人目でも中の様子はちらりとしか見えません。扉の内側には分厚い緋色のカーテンが取り付けられています。片方がたくし上げてありますが、中の方が相対的に暗いので、よく見えません。どうやら、テレビカメラがあるようです。立見席行列の先頭には、若い日本人のグループがいました。そのうちの1人は連戦錬磨の達人らしく、「柱を避けて、柵のそばへ」という指示が飛びました。何のことだろうかと思っていたのですが…。

10時30分きっかり、入場の指示が出たと思った瞬間、みんな中になだれ込みます。「柱を避けて、柵のそば!」ということで、ほんの数歩進んだだけのような気がするのですが、とにかく無我夢中で柵に飛びつき、柱を避けてなんとか一歩内側に寄ったところで、周りは人に囲まれ、身動き出来ない状態になりました。さっきいた日本人グループも何処へやら、私はスペイン人の夫婦とイタリア人の若者グループの間に挟まれました。とても混んでいて、通勤時間の電車並みです。柵のそばはさしずめ満員電車の扉の横といった感じでしょうか。あまりにも混んでいて、視界の開けた前以外、周りを見る余裕すらありません。そこで再び、開演まで30分待つことになりました。柵は身長160センチの私の脇の下までありました。手を載せて、顎を置くにはちょうど良い高さでした。

演奏の素晴らしさは言うまでもありません。重厚な弦の響き、管楽器の明快なサウンド、ピア二ストの力強いパフォーマンス、テンポ、メロディーの歌い方、どれをとっても最高でした。休憩時間になって周りを見回す余裕が出てきたときに、小学校の教室2つ分くらいの立見席の奥まで、びっしり人がいたことに気がつきました。スーツでバッチリ決めた地元の方と思しき紳士、孔雀石色のツーピースを着たマダムからラフな格好の観光客まで、このコンサートをどうしても聴きたかった人達がここに集っていると知りました。そんな中で最前列に陣取れたのは、かなりの幸運です。さらに、終演後になってようやくわかったことですが、テレビカメラは立見席の左側linksに寄って設置されていたので、もし反対の階段に並んでいたら、まず最前列は取れなかっただろうということです。と言う訳でみなさん、ウィーンフィルの立見席に並ぶならば、右側rechtsの階段がオススメです。

最終的に、9時45分から2時まで、トイレに行く余裕もなく立ちっぱなしでしたが、あの演奏が6ユーロならば、これくらいの努力をしてもいい、と思える満足感でした。


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